「五味さんの野菜はどれも甘みがあっておいしい」
そう言って、五味さん(『53farm 五味園芸』)が参加している青山ファーマーズマーケット*には、多くのファンが毎週楽しみに買いものにやってくる。
農薬を使わないで育てるのはさぞ大変だろうと思い伺うと、こんな答えが返ってきた。
うちは基本、低農薬栽培なんです。もちろん使わなくていい時は使いません。根菜類は昔も今もゼロです。化学肥料もまず使うことはありません。できるだけ自然堆肥だけでやっています。
でも、農薬イコール悪と単純に考えるのはどうかと思います。虫が食べて穴だらけのものはちょっとね。
それにこのあたりは農村ですから、他の農家の方に迷惑をかけられません。自分たちが害虫や病気を発生させてしまうとすぐに隣の畑へ飛び火して、村一帯が損害を被ってしまう
農作物の被害で最も多いのが害虫と病気。害虫が作物を食べてしまうだけでなく、巣くうこともしばしば。害虫が媒介役となって病気を持ち込むこともある。水、風、道具、人によっても感染拡大していくことが大いにあるのだ
その上、現代は獣害、高齢化・後継者問題などほかの問題も山積みだ。無農薬栽培は通常の農法の何倍も手間暇のかかることが多く、農地が広大になるほど人手も必要だ。
だから、どうしても農薬を使わなければならない時は最低限だけ使います。僕が意識しているのは元気でおいしい野菜を作ること。育てた野菜は僕と家族も食べますから。
8歳になる柴犬そらも野菜が大好き。普段は家の残り物を食べていますが、お気に入りのエリアがあって、しょっちゅうそこの野菜を勝手に食べています(笑)。特に小松菜やほうれん草が好きかな。おかげさまで野菜もそらも元気です
包み隠さず正直にやっていくのが『53farm 五味園芸』スタイルである。
実家は元々農家で、お爺さんは養豚、父と姉たちが花、そして僕『53farm 五味園芸』が2haほどの面積で野菜をやっています。一年を通してざっと100種類くらいかな
1haとは約1万㎡。農業の世界では一丁歩(9917.4㎡)と呼び、同等の広さとして扱われる。具体的にはサッカーコートが約0.7haなので、五味さんの野菜はサッカーコート3面近くの広さの農地で育てられていることになる。
春は菜花やヤングコーン、ケール、ジャガイモ、スナップエンドウなど。初夏から夏にかけてはトウモロコシにトマト、バジル、クレソン、二十日大根、ナス、十六ささげなど。秋はジャガイモ、サツマイモ、バターナッツカボチャ、カボチャ、唐辛子類、ナス。
あと冬は白菜、ほうれん草、小松菜、ニンジン、芽キャベツ、かな。あ、沖縄品種のニンジンやオクラもやってますよ。
この辺りは方言で「のっぷい」と言って、石が少なくきめの細かい肥沃な土。水はけがよく、根菜が良く育ちます。うちの場合はそこにシイタケの菌種を入れるなどして、より元気な土を作っています
五味さんの農地があるのは甲府盆地の南、右左口町。西は南アルプス、北は八ヶ岳連峰、そして南は富士山に囲まれたところ。「のっぷい」とは火山灰土壌のことだ。
甲府盆地は寒暖の差が大きいことで知られる。夏は気温40度近くに、冬は氷点下5度以下になることもしばしば。朝晩での寒暖差も激しく、野菜作りにはもってこいの気候なのだ。
五味さんは1981年、山梨県甲府市に生まれた。実家は代々のナス栽培の専業農家。
地元の中学を卒業した後、三重県の全寮制農業専門の学校、愛農学園農業高校に入学。有機農法(農薬・化学肥料を使わない農法)はもちろん、人間関係、食と健康、哲学までもみっちりと学ぶ。そして高校卒業後は大阪の園芸専門学校へ。
しかし、農業大学校卒業後、大阪の服屋に就職してしまう。
もちろん元々ファッションにも興味があったんですが、親元を少し離れたいや知らない土地で過ごしてみたいと思って大阪に向かいました。
しかし、大阪で暮らして15年経った頃に家業を継がないといけなくなり、親が話し合いに大阪まで来て説得され帰郷を決断しました
2013年、帰郷。一年間は甲府市の他所の農家に研修に入り、その後実家で本格的に野菜作りに着手する。
祖父は養豚、父と姉がエディブルフラワーや多肉植物をやってまして。そして元々有機農業(農薬・化学肥料を使わない農法)に強い興味を持ち、一部の菜園で有機農法を実践していた父と共に野菜作りを始めました。
すべて苗は購入せず種からの栽培です。種は大半が自家採種、残りは購入、一部お客さんからの持ち込みです。
基本的に露地栽培。苗の育苗や冬季の葉物野菜など一部はビニールハウスで
育てられた野菜のうちナスのみ農協に卸すが、それ以外はすべて直接販売だ。
主な販売先は飲食店や個人消費者。毎週土曜日は先述の青山ファーマーズマーケットに出店し、毎週水曜日は都内の飲食店や個人宅へ五味さんご自身が配達に出向く。他にもBASEアプリでの販売や日曜に都内出店などがある。
ファーマーズマーケットや配達などは、前に買ってくださったお客さんから直接感想を聞くことができるし、他の農家さんと出会えるチャンスでもあるのでとても楽しいし勉強になります
自然や生き物のことはもちろん、根っから人間好きの五味さん。服屋で鍛えたユーモアもあいまってその屈託のない人柄にますますファンが増えていく。